ブティックで試飲してもらった反応を見る限り、日本人のお客さんはドザージュ低めを好む傾向が強い。ジャニソン・バラドンのラインナップでいえば、エクストラ・ブリュットやノン・ドゼのあたりだ。2016年1月に上司シリル・ジャニソンと日本に行った際も、特に多くの質問をもらったのがノン・ドゼだった。日本に限らず、他の国のお客さんからもよく質問を受ける。「ノン・ドゼって何ですか?」。

シャンパーニュの泡を作る瓶内二次発酵、瓶内の澱を瓶口に集める動瓶(ルミュアージュ)の工程を順に経て、澱抜き(デゴルジュマン)の後、通常であれば、門出のリキュール(リキュール・デクスペディション)を加える。しかし、澱抜き後に何も加えないのがノン・ドゼだ。「ブリュット・ナチュール」「パ・ドゼ」「ドザージュ・ゼロ」も表現は違うが、ノン・ドゼと同様のシャンパーニュだ。

約10年前、あるシャンパーニュ生産者が来日した際に「あなたのブリュット・ナチュールは日本でとても人気がありますが、フランスでも同様に人気なのですか?」と質問したことがある。「実は、ブリュット・ナチュールは日本だけに販売しています。他の国のお客さんにはドザージュなしでは辛過ぎてしまうので」と教えてくれた。

ところがこの数年、大手・小規模を問わず、いろいろな生産者からノン・ドゼの発売が相次いでいる。昨年上司が参加したプロ向けの試飲会で、隣になった生産者がボヤいていたそうだ。「今年はどのジャーナリストも、インポーターも、エクストラ・ブリュットはないか?ノン・ドゼはないか?と聞いてくるから参ったよ」。

シャンパーニュがアッサンブラージュ(ブレンド)で各自のスタイルを追求するだけでなく、ブルゴーニュのようにテロワールを表現する傾向が強くなったから。温暖化の影響でブドウがよく熟すようになったから。愛好家の中に辛口を好む人が増えてきたから。低ドザージュ化の説明は、生産者やジャーナリストによっても違う。

ドザージュなしの先駆けといえば、大手メゾン、ローラン・ペリエの「ウルトラ・ブリュット」だろう。同社資料によれば、この発売が1981年。当時の料理界の潮流「ヌーヴェル・キュイジーヌ」が持つ、濃厚なソースを使わずに素材本来の味わいを生かす考え方に応えて生まれたキュヴェだという。現在、ドザージュなしのシャンパーニュは「鮨や日本料理にぴったり」と説明されることも多いので、ドザージュなしを巡る料理の違いは興味深い。

ジャニソン・バラドンがノン・ドゼを発売したのは1999年。比較的早くから生産に取り組んでいた。ドメーヌ5代目にあたる兄弟の長男・シリルは、ブルゴーニュから戻り、その2年前から父親と一緒にドメーヌで働き始めた。ノン・ドゼは、彼が初めて自分で作ったキュヴェだ。カーヴで瓶熟成していたブリュット・セレクション(日本未輸入品)を試飲したところ美味しかったので「このままドザージュしないで販売してみたら面白いかも」という閃きから生まれた。先輩の同業者たちから「若い奴が変なことを始めたぞ」と冷ややかな視線を浴びたこともあった。発売当初の売上は厳しく、安定した売上を得るまでに数年かかった遅咲きのキュヴェだ。

「ノン・ドゼは、畑の仕事、カーヴの仕事、全ての仕事がはっきりと出てしまう。ごまかしが効かない。生産者の腕がわかるシャンパーニュがノン・ドゼだ。ノン・ドゼが美味しいシャンパーニュは良い造り手だ」。日本滞在中、あるディナーでシリルがお客さんに熱っぽく説明していて、傍で聞いていて胸を打たれた。それも束の間、フランス男らしい注釈も忘れていなかった。「お化粧が取れるとがっかりしちゃう女性いるでしょう?美味しいノンドゼは、すっぴんでもきれいな女性みたいなものだね」。耳が痛い。我が身の低ドザージュ化こそ必要とノン・ドゼに教えられた夜だった。

(山田宏美)

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写真上:NON DOSE フランス本国仕様エチケット
写真下:同じく日本向けエチケット