『インテリアの世界では北欧と和の調和は常識』と、ACTUS代表取締役社長 休山昭氏。食の世界においてもふたつはマリアージュするのか、否か。

桜が満開を迎えてこれから暖かくなるというその時に、「東京に着いたら岩手より寒いんだもの。びっくりしたー」と南部美人常務取締役・久慈雄三さん。それほど寒い一日となった。

着くとそうそうスタッフミーティング。ワインと違って冷やしたものを提供するだけではない。今回は「お燗をつけたお酒」が主役なのだ。手順の確認やお酒自体の講義が行われた。みな真剣に聞き入る。
soholm雄三の会ミーティング

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時間になり着席したお客様に最初に運ばれたのは、「アポ純米 斗瓶囲い無濾過生原酒」。アポロ氏が岩手県二戸で栽培した美山錦を80%とあまり磨かないで仕込んだ純米生原酒で、それを「斗瓶」という大きなガラス瓶で特別に貯蔵しているお酒だ。アルコールが19%ある。日本酒度にいたっては+18、酸も2.2%。楽しみである。それをソーダで割っている。参加者一同興味と驚きが混じった表情で運ばれてきたグラスを見つめている。

SOHOLM花房店長からお礼の言葉と開会宣言。
そして南部美人・久慈雄三さんから挨拶があり、いよいよ乾杯で開宴。
開宴の挨拶は当日お客様として参加されていた尾瀬あきら先生(「夏子の酒」の作者。「どうらく息子」連載中)に突然にお願いした。
soholm南部美人・尾瀬先生挨拶
いつもより気の利いた挨拶といつも通りのタイミングが悪い(笑)乾杯の発声で始まった。

「炭酸で割ってもいいんですね!おいしい!」「造っている方がどんどん割っていいよと言うんですから、安心して楽しめる」という声があちこちで聞かれた。

「今日まで水で割ったりするのは造り手に対する侮辱という雰囲気だった」という声も。搾られたお酒は原酒といいアルコール度数も味の濃さも強いので、通常は仕込み水で割って味わいを調整してから出荷される。何通りも割水歩合を変えたお酒を用意し繰り返し唎酒をして決めるとても真剣な作業であることから後で手を加えるなどいうことはしてはならないと、そういう思考に繋がったのだと思う。
それはおおよそ正しいが、すべてではない。これについては近日きちんと記事にするのでご高覧頂ければと思う。

さて先付のキャビアとそば粉のパンケーキと椀のスープ・ド・ポワソンの一緒盛りが運ばれてきた。
キャビアといえばシャンパーニュが定番だが日本酒の相性はポテンシャルがとても高い。魚卵には特にその力を発揮する。

soholm雄三の会キャビア

 

向付の自家製ロースハムと彩どり野菜のスチームに野菜のジュレを添えたものには雄町純米斗瓶取り生原酒 上澄み斗瓶囲いを冷やして味わう。
これも搾られて間もない。アルコール19~20%日本酒度+13、酸度2.2という強者である。高いアルコール度数のアタックに最初はちょっと驚いていた参加者が慣れてきたらしい。すいすいと口に運んでいる。仕込み水はもちろんたっぷりと用意している。柔らかく香り高いジューシーな日本酒に慣れた方には驚きの連続であろう。
この頃から肉が食べたいという声がきかれるようになる。エレガントな風味を持ちつつもとてもドライな味に食欲を刺激されているのだろう。

 

肉の前に鉢肴として桜鯛と春野菜の酒蒸し・桜の葉の香り、が出された。ここからお燗の出番である。お燗を付けるのが忙しい。ちろり三本がフル稼働する。
soholm南部美人春の魚
温度は極めて熱くし、提供する前に少し仕込み水か同じ酒を加える。すると香りが落ち着きまろやかさが増す。

「ぬる燗でおいしいのは良く熟成した純米酒だけですよ。こんな搾ったばかりで設計もガチガチな酒は熱くしないと」と久慈雄三さん。

soholm雄三かんすけ

 

いよいよ今夜のメイン、高知県産の鹿のロースト。
これに合わせるお酒は、「南部美人 芳梅 純米吟醸斗瓶取り生原酒」。
無農薬で栽培された美山錦を55%になるまで磨いて仕込んだ純米酒だ。これをはやりアツアツの燗で合わせる。仕込みが小さいだけありより滑らかでスマートな感想。パワフルではあるが清涼感が感じられる。純米吟醸を、しかも斗瓶取りという圧力を加えずきれいに仕上げたお酒をアツアツの燗にするなど言語道断と思う方もいらっしゃることと思う。しかしこれはそういう飲み方を想定して、いや、そういう飲み方の提案のために設計されている。このお酒は熱燗にして生きる造りということ。久慈雄三さんの哲学である。
雄三さんはジューシーで柔らかいお酒も造れるしよく理解もしている。実際南部美人の90%はそういうお酒だ。
そういったタイプのお酒で大変な人気を博している彼の酒造りの先輩・友人達とも仲良くしお互いをリスペクトし合っている。
雄三さんは「だっていろんなお酒があったほうが楽しいじゃないですか。僕は教本に書かれているようなフツーな純米酒を造っているだけ」という。

 

soholm南部美人鹿ロースト
鹿のロースト

 

「東京の人は飲み方が上品だなぁ~(笑)」と久慈さん。岩手では豪快に杯を煽る方が多いとのこと。
それでもお燗で暖まった参加者の明るい談笑の声と笑顔でレストランは満ちている。今回は簡易PAを用意したがそれが大いに役に立った。マイクなしには話を届けることができないほど賑やかだった。

もうちろりで何本燗にしたかわからない。そんな頃、そろそろお開きの時間迫りつつあるとお店のスタッフからの声がかかる。
わかめご飯、まつもの吸い物、自家製ピクルス。このレストランの野菜達は肉同様大変吟味されている。

そして最後に南部美人の酒粕のアイスクリーム、のはずだったが雄三さんのうっかりで市販の酒粕を使ったアイスクリームに。雄三さんのお詫びの言葉で会場大爆笑になる。しかし当日雄三さんが当日持ち込んでくれた無農薬美山錦の搾りたての酒粕をシェフが素早く効果的に使い、風味を間違いなく南部美人にしてくれた。

 

ついにお開きの時間となった。
花房店長と久慈雄三さんの挨拶で楽しく美味しい時間を締めくくった。
北欧と和の調和はインテリアの世界だけでなく食の世界でも常識になる日がくることを確信できた。
soholm雄三、花房、依田

 
雄三南部美人の会集合写真2

素晴らしい会となり名残を惜しむ参加者と記念写真。