毎週末晴天に恵まれた10月は夏よりも忙しく感じたほどだったが、11月になると驚くほど静かになった。ここから観光のオフシーズンだ。とはいえ、シャンパーニュ生産者は、別のオンシーズンを迎える。クリスマス商戦だ。

ドメーヌは出荷で大忙しだ。国内のワインショップ・レストラン、国内外の個人客からの注文に加え、ヨーロッパ向けの輸出も増える。上司は「僕らは幸いにも、こうして忙しくさせてもらっているけれど、フランス国内の消費は落ちているんだ。輸出のない国内販売主体の生産者の中には、この大事な時期に注文が伸びずに青くなっている人もいるみたいだよ」と教えてくれた。文字通り「バブリー」で華やかな印象のシャンパーニュとて、その販売は景気に左右される。

一方ブティックは暇だ。といっても、それは平日の話。週末はフランスやベルギーから得意客が車でやって来る。「年末のパーティー用」のシャンパーニュを購入するためだ。このパーティーの中には、クリスマスと大晦日の他に、友達や同僚とのパーティーも含まれる。日本で12月になると忘年会の予定が増えるのと似ている。

1ケースは6本入り。この時期は5ケース(30本)単位で購入するお客さんも珍しくない。一体どんなパーティーをするのか知らないが、高級四駆車のトランクと後部座席にぎっしりと詰め込んだ30ケース(180本)を眺めながら「これで足りるかなぁ…」と本気で心配するカップル客もいた。

多くの場合、クリスマス前に来る常連客が買うボトルは、ノン・ヴィンテージのブリュット(以下、NVブリュット)だ。ヴィンテージ品でもなければ、限定品でもない、スタンダードなシャンパーニュだ。ドメーヌの生産量の半分以上を占め、商品群の中でも一番安い。例えばモエ・エ・シャンドンならブリュット・アンペリアル、ヴーヴ・クリコならイエロー・ラベルがそれにあたる。大手メゾンであれ、小規模生産者であれ、生産者の顔といえるシャンパーニュがNVブリュットだ。

この季節になるとNVブリュットの大切さを再認識する。数十年来の顧客がひと口飲んで「そうそう、これこれ」と納得する。この何気ないひとコマの中に、NVブリュットのすごさがあると思う。原酒の収穫年が変わればブドウの味わいも違うにもかかわらず、毎年異なる条件の中で、変わらない味のスタイルを実現しているのだから。それを可能にする技「アッサンブラージュ」(ブレンド)こそ、シャンパーニュの真骨頂だろう。そして、その妙味を一番感じられるのが、NVブリュットだろう。

ブレてない。NVブリュットって、かっこ好いなァ。

 

文・Hiromi Yamada