4月前半は天気の良い日も多く、真夏のような日もあったほどだった。しかし後半は一転、夜から朝にかけての気温の落込みが大きく、最低気温は氷点下を記録する日が続いた。遅霜によりブドウ木に被害を受けた生産者も少なくない。昨年、霜の影響で2016年ヴィンテージの収穫全てを失ったある生産者が「今年も霜でもう収穫の半分を失くした」と話していたと人づてに聞いた。「今年のシャルドネは全滅」。SNSに霜に覆われた畑の写真を掲載した生産者もいた。「自然相手の仕事だから仕方ないよね」と彼らはいうけれど、なんともやるせない。
生産者たちは、春の霜に戦々恐々という心持ちであったはずだが、例年通り、年一度のイベント「ル・プランタン・デ・シャンパーニュ(Le Printemps des Champagnes, シャンパーニュの春)」は行われた。毎年4月半ば頃、ランスの街を中心に、シャンパーニュ生産者有志による各グループが、プロ向けに試飲会を行う。その試飲会が集中して開催される1週間の総称がル・プランタン・ド・シャンパーニュであり、また単に「シャンパーニュ・ウイーク」と呼ばれることも多い。この期間に、ジャーナリスト、輸入業者、ソムリエ、酒販店など、世界中のワイン関係者がランスに集まる。
シャンパーニュ・ウイークの始まりは、生産者グループ「テール・エ・ヴァン・ド・シャンパーニュ(Terres & Vins de Champagne)」が、ヴァン・クレール(瓶詰前の白ワイン)とシャンパーニュを提供するプロ向け試飲会を初開催したことに遡る。試飲会は大成功を収め、それに続けと、新たな生産者グループが組まれ、新たな試飲会が開催されるようになり、シャンパーニュ・ウイークと呼ばれるまでの大きなうねりとなった。
いずれの試飲会も、小規模生産者の有志が集って自主的に開催している。産地単位で大規模な試飲会が1つ行われているのではなく、小さな試飲会がいくつも集まった結果として大きな行事になっているのが興味深いところだ。こうした小規模生産者の精力的な活動は、少なからず大手メゾンにも影響を与えているようで、ここ数年、シャンパーニュ・ウイーク期間にワイン関係者を招待して特別試飲会を開催するメゾンも増えている。
勤め先のドメーヌは「Les Mains du terroir de Champagne (レ・マン・デュ・テロワール・ド・シャンパーニュ)」に所属している。グループのメンバーは、日本で人気の高い生産者も多く、シャンパーニュ・ウイークの中でも、特に来場希望が多い試飲会のひとつだ。上司は、試飲アイテムとして未発売・初披露のシャンパーニュ「7セパージュ(仮称)」を用意した。主要3品種(ピノ・ノワール、ムニエ、シャルドネ)に加え、古代4品種(アルバンヌ、プチ・メリエ、ピノ・ブラン、ピノ・グリ。すべて白ブドウ品種)をブレンドしたキュヴェだ。試飲会の前日にデゴルジュマン(抜栓)したもので、ドザージュなしの状態で来場者に試飲してもらった。「みんなの意見を聞いて、最終的なドザージュ量を決めたいんだ」と言って、積極的に来場者から感想を聞き出していた。
このように未発売品を出品する生産者は少なくない。来場者の反応を参考にしながら、ドザージュ量、発売時期、ラベルデザインなど、商品の最終形を探る。試飲会は、生産者にとって格好のテスト・マーケティングの場でもあるようだ。
厳しい寒さもあり、満ちる熱気もあり。いずれも、シャンパーニュの春模様だ。
山田宏美