お燗用の純米酒の評価は難しい。

熟成の先を見ないといけないからだ。
上槽(お酒を搾ること)の直後の
固くて、渋くて、痩せている、そんな
少しも良さそうに思えないお酒を
テイスティングしながら将来性を探る。

搾られた時が終わりではないお酒の成長。

まるで人のようではないか。

人生いろいろありますよ。
それが成長に繋がったり、ダメになったり。
本当にいろいろ。
だから、今は出来が良くなくとも将来を見つめていられるというか。

話が脱線してしまった。
うまく熟成が進み良い点がふくらんで美味しいバランスになった時、
ほんとうに旨い酒だなと感動する。
ここまで良く育ったなと感動する。

長期熟成を経てやっと美味しくなるのは
ある種のワインが良い例だ。
あのバローロ(イタリアの長期熟成高級赤ワイン)も
きっと出来立ては暴れまくっているのだろうなと思う。

そこまで辛抱して待つ蔵元はすごい。
それまで売れないのだから。
美味しくならないうちに売ることは、
評価を落とすことに繋がってしまう。

これはもう酒造り全部に言えることなんだけれど、
どちらが楽で、どちらが良いなんてものはない。
どの現場でも真剣で、人生をかけて挑んでいる。
どの味わいの分野でも楽して良い酒なんてない。
いろいろ見てきてそう思う。

赤ワインしか飲まないという方へ。
白ワイン飲まなきゃもったいないよ。

白ワインしか飲まない方へ。
赤ワイン飲まなきゃもったいないよ。

また脱線した。
この辺についてはいずれしっかり書きたいと思う。

いずれにしろ、
太田酒造場は我慢と固い決意が必要な酒造りをしている。
そんな激しく強い心をもたなければいけない蔵元と
その奥様、ご家族はとても柔和だ。
表に刺々しい闘志など微塵も感じない。
どうなっているんだろう。
休蔵を迫られたほどだから、並々ならぬ苦労をしているはず。
自分を振り返ると、本当に恥ずかしいばかりだ。

今年の辨天娘のきき酒会は例年の二倍ほどのお客様になったとのこと。
辨天娘のファンが確実に増えていることが実感できた。
参加者が多いせいもあって料理がとても上手な社長の奥様のお料理が追い付かない。
奥様の名物(辨天娘ファンなら知っている)鯖の麹漬けも
どんどん消えていく。ひと切れだけ味わえたが変わらず美味しい。
二日間行われるこの催、きっと二日目も盛況だろう。

辨天娘には、山田錦や玉栄といったポピュラーな酒米を使った
純米酒の他に鳥取のアイデンティティともいえる「強力」、
そして個性的な「鳥姫」という米の純米酒があって
それぞれ5番娘とか何番娘とか名がついている。
可愛らしい、なんとも太田酒造場らしいなと思える。

今BY(醸造年度)の辨天娘は当然まだ若い。
熟成を経てどんな美女になっていくのか楽しみだ。
若くて弾けるようなひともお酒も素晴らしい。
また時を重ねたひとやお酒も素晴らしい。

何でも良いわけではない。
良いものは良い、ということ。
その目と舌と感性を日々磨きたいと思う。

 

和服を着た美しく賢い大人の女性に辨天娘のお酌をされ
すっかり幸せになるありえない妄想を楽しみながら、
再び若狭鉄道の車両で太田酒造場を後にした。

 

追記
広島へ嫁がれた洋子さんも陰でお手伝いに来られていた。
ご主人の思いやりだと言う。
ご馳走様です。
辨天娘・洋子さん

 

 

(依田浩毅)