それは夢のような会でした。
伯楽星(日本酒・宮城)、アルガブランカ(山梨県産ワイン)、RIEDEL(世界的ワイングラス)の三社が弊社の長年のお得意様でもある国分寺の治鮨に一堂に会したお酒とお鮨の会が開催されました。
たくさんの高級酒が揃うお酒の会はそうは珍しくないでしょう。入店をためらうような超高級店で開催される贅を尽くした豪華絢爛な会もあります。ではなぜこの会が特別に感じたのか。それをここで簡単にお伝えするのは大変難しいのですが、何とか言葉を選ぶとするならば、主催者のたくさんの感謝の思いが最大限表現されそれが参加者に伝わった会だった、と言うべきだと思っています。
主催は治鮨の親方ご夫妻。伯楽星とアルガブランカの会を開催することは女将さんの「夢」だったそうです。治鮨さんではこの両者のお酒は食中ずっと心地よく楽しんで頂きたいと、七年以上ずっとお店にあり続け、「このお酒たちは当店の不動の四番でありエースです(親方)」と、勧め続けてきたお酒たちです。お客様にも大変好評で、中には伯楽星で人生が変わったという方までいらっしゃるそうです。伯楽星とアルガブランカを愛しお客様を愛し、そしてまた彼らに愛されてきた治鮨さんがその皆に感謝の会を開きたいと私共に相談してくださったのです。
治鮨さんでは以前アルガブランカを楽しんでいただく会は開催した経験がありました。そして憧れの伯楽星の蔵元、新澤巌夫社長を招きたいのだが来て下さるだろうか、と、そんなとても控えめな言葉から事は始まりました。それからお店の定休日を使って東京都国分寺市から甲府まで何度も打ち合わせにいらしてくださいました。女将さんは持参する企画書と会の進行表に打合せで出たことをびっしり書き残してお帰りになる。そして次回の打合せにまた盛り込んでくるということを繰り返して改良を重ねていきました。
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そうして出来た企画書・進行表はとても細やかな配慮が盛り込まれたものになりました。予想される問題もほぼ解決しています。それに従って進めていけば、準備が不足して当日間に合わせで急ごしらえするなどの事が無くなり会がスムーズに進行するだけでなく、ゲストや参加されるお客様に対し浅慮な失礼も無くなり後悔がありません。
「そんなことはわかっているし、ウチでもやっている」と言う声が聞こえてきそうですが、大事なところだけに再確認をお願いしたいところです。回を重ねて慣れれば慣れるだけこういった地道な詰めが甘くなってはいないでしょうか。また、まさか、蔵元はたくさんあるのだから次々違う蔵を呼んで店に客を集めればよいなどと軽く考えたりはしていないでしょうか。ゲストの蔵元やワイナリーは多くの場合遠方から交通費や宿泊費をかけて来てくださいます。そして貴重な時間を私たちの企画する会のために費やしてくださるのです。それだけの価値のある会になっているでしょうか。立場が逆だったらどうなのだろうと熟考するべきだと思います。昨今の飲食店のお酒の会に対し「飲食店のその場だけの新規客集めの会。うちの蔵の酒は会の時だけで一週間もしないうちに店から無くなっている」と嘆く蔵元が少なくありません。蔵元様もワイナリー様もその後を良く見ておられます。その辺のところをよくよく考えて会の企画を進められることを提案したいと思います。今回の治鮨さんの心のこもった取り組みの姿勢を拝見し、私も深く見習なければいけないと思っております。
さて会の話に戻します。
この会は「感謝」がメインテーマでした。その心に打たれた新澤社長より特別な提案がなされました。新澤醸造店のトップオブトップである精米歩合7%という驚きの高精米の純米大吟醸「残響」の原料米で鮨を握って召し上がってもらったらどうだろうか、と言うものです。かつてどこの鮨店でもしたことのない、いや、することもできない挑戦でした。新澤さんは今までに無くまたこれからも滅多にできないものを、お客様に体験していただこうと言うのです。それに合わせるのは当然「残響」以外にありません。7%にまで精米された2キロの米を提供するのに玄米は一袋(30㎏)ほどの量を提供するのと同じなうえ、それを350時間もかけて精米したものなのです。どれだけ貴重なものなのか容易にわかります。初めて行く鮨店にそれ以上の心遣いをする蔵元の信頼と感謝の念はいかばかりのものでしょうか。他にも沢山の支援をしてくださったそうです。そこまで新澤さんを動かしたのは女将さんが新澤さんに送った挨拶状と企画書・お店の資料でした。「最初、本が送られてきたのかと思いました」と新澤さん。そこまで厚い丁寧な挨拶の手紙と企画書資料だったそうです。
そして親方はその高い期待に応えます。今までにない高精米の鮨飯を炊き上げて鮨に仕上げました。しかも新澤さん始め全員が驚いた「あられのお鮨」まで出したのです。
今回の会には大きく勝沼醸造の有賀常務も深く感銘を受けています。実は最初伯楽星の会だけの予定だったのですが、新澤社長の「ぜひ勝沼醸造様と共に開催させてほしい」というラブコールにより実現したものなのです。そこで出品されたのが新澤社長が「感動した」というアルガブランカのスパークリングワイン「ブリリャンテ」はもちろん、あの「イセハラ」も、伯楽星と共演をしてお客様を心酔させることになりました。その朝剪定したばかりのブドウの枝や葉を有賀さんは車で運んできてくださいました。そしてそれらはお客様の目を楽しませることになります。親方ご夫婦の気持ちに打たれたからこその、有賀さんの感謝の気持ちの表し方だったと思います。
これらの最高のお酒たちを提供するためには、半端な酒器では不相応だということになり相談を受けました。治鮨様にはとても美しい江戸切子を始めとする酒器が揃えてあります。がしかし今回のお酒たちをより良く表現し提供していくのに必要な数がどうしても足りないため、今持っているものでどう提供して行ったら良いか私に提案してほしいとのことでした。
そこで私はリーデルジャパンのシニア ワイングラスエディケイターの庄司大輔さんに協力をお願いすることを思いつき、すぐさま電話をしました。手前に並ぶグラスは、リーデルが本気で開発を進めてきた「純米グラス」です。
女将さんは「ご出席頂いたお客様は長年アルガブランカや伯楽星を足しげく通ってお鮨とともに楽しんでくださる方で、誠に失礼ながら、私共が選んでご案内状をだしました」とおっしゃいました。「限られた少ない席なので、平素からの感謝の気持ちを少しでも表したくて」ということでした。会費はこんなすごい良い内容に不釣り合いなほど安いものでした。安ければ良いというものではありませんが、参加されたお客様にはその気持ちはしっかりと届いたに違いありません。誰もが幸せになった会だと思います。
お開きの時間になるまでとても楽しく温かな時間が流れました。この会の事は出席されたお客様はもちろん、新澤社長、有賀常務、庄司さんにとっても忘れることのできない感銘的な会になったと思います。治鮨の親方、女将さん、強力なお手伝いをしてくださいましたブラックハートの飯田ご夫妻、そして心強いバイトリーダーの学生さんお二人には心よりお礼を申し上げたいと思います。誠にありがとうございました。
リーデルジャパンの庄司さん。たくさんのご協力をありがとうございます。
頼もしい息子さん、こうき君。私と名前が同じ(笑)。料理専門学校を卒業後、現在麻布のフレンチレストランで経験を積んでいます。
良いお店には良いスタッフがいます。紹介されて照れる良い青年達です。
朝剪定されたばかりのブドウの枝が活けられた治鮨のエントランス。