「でかい!!」

それがシリル氏を初めて見た時の私の印象だ。
私も180cmちょっとあるから大概会う人の顔を見下ろす形になるのだが、シリルは187cm。完全に見上げる形となる。これにはなかなか慣れない。

 挨拶のあとからシリルはずっとジョークの連発で周囲は常に笑いが絶えない。大男はその体の大きさからか大雑把だとか何かと良く言われないこともあるのだが、シリルはとても細やかで心優しいスマートなシャンパーニュの経営者だった。

依田酒店では自身のワインに全部記念のサインをしてくれた。価値がひとつふたつ上がったような気がする。
山梨県甲府市という小さな地方都市に自分のシャンパーニュが並んでいるのを大変喜んでくれている。私がシリルだったら、やはりきっとうれしいと思う。
当ウェブサイトの人気コンテンツ「シャン文雑記」を書いてくださっている山田宏美さんも同行してくれていてフランス語の通訳をしてくれるので、シリルとの意思疎通は大変うまく取れている。大変ありがたかった。

甲府駅前の依田酒店直営山梨県のワインと山梨の食材を楽しむレストラン、十四番目の月に移動する。
そこには当日都合の合ったワインの造り手が集まってくれた。キザンワインの土屋幸三さん、ダイヤモンドの雨宮吉男さん、奥野田ワインの中村雅一さん、そしてアルプスワインの前島良さんだ。それに私と神奈川から駆けつけてくださったお客様とシリルの定番シャンパーニュ、ヴァンドヴィルから宴は始まった。

フランスと日本のヴィニュロン同士の話は大変興味深かった。
横で聞いていてもたまに聞こえる醸造用語やブドウ品種が耳に入りただの宴会ではないことを感じる。参加してくださった造り手たちのワインも次々に楽しみながら意見交換や親交を深めていく。ブルゴーニュで三年間経験を積んだダイヤモンドワインの雨宮さんは流暢なフランス語でシリルと語り合っている。

ジャニソン・バラドンがあるエペルネは、特級クラスのブドウの産地ではないことから目立った産地として見られにくいという。そんな見方を良いシャンパンを作り続けていくことで変えていきたいとシリル。いつもジョークで笑わせている彼が芯のある真っ直ぐに響くような話しぶりでその熱意を語る時、言葉がわからない私にもその並々ならぬ気持ちが伝わってきた。山梨も少し似ている。人口が無いため商圏として認められないと言われたことがある。私にとってとてもさみしい評価だったがそれは逆に心の燃料となった。シリルにもそんな思いがあるのかもしれない。しかし彼はそんなことにそれほど頓着していないのかも知れない。見ているのはきっとワインとお客様なんだろう。

たくさんのワインを飲み干し、またの再会を誓うシリルと山梨のヴィニュロンたち。それぞれに大切にしているワイン造りや生き方への哲学が感じられてとても素敵な夜となった。今度は私がシリルに会いにエペルネに行こうと思った。

この場を借りてヌーヴェルセレクション・牧さん、
JBの山田宏美さんに心から感謝申し上げます。(依田浩毅)