2019年4月4日、銀座に(株)良品計画がホテルを開業しました。https://hotel.muji.com/ginza/ja/
日本における最初のホテルで1Fから6Fまでが無印良品のショップ、そのほかに、B1に大型のダイナー、「WA」という和食店、そして6F以上が客室となる良品計画の旗艦店です。
無印良品というと以前は高品質なんだけれどわけあってとごろな価格で良いというイメージがありましたが、現在では無印自体がブランドに成長し、熱烈なファンを世界中に持つまでに至っています。そのホテル版・MUJIホテルはさてどのような感じに仕上がったのでしょうか。それには書ききれないほどの事を書かなければなりません。そのため皆様の目で、舌で、五感で味わっていただくしかありませんが、少しだけご紹介したいと思います。
昨年12月、WAやダイナーで出すお料理の試食とプレゼンテーションに参加することになりました。お料理の感想を、多くの飲食店の料理を見てきた私からも聞きたいということですがもちろん、それを通して「MUJIの酒」を考えてほしいという担当者様からの希望でもあります。
お料理のプレゼンテーションは回数を重ね、開業ギリギリまで続きました。その度に私も上京し、本社のテストキッチンに詰めました。手に汗握る発表へ担当する社員・役員からでる質問や意見・要望の数々が容赦なく出されます。その真剣さが、切れるようなその場の空気になって私にも伝わって来ました。それが、パンや各商品にまで及びました。「MUJIの料理とは何か」を徹底的に突き詰めていく作業でした。華美にせずほんとうに良いもの、MUJIらしい品質の高さと味に相応しい価格が追及され、そしてついに開業を迎えました。
数えられない数の試作と試食を繰り返してできたお料理を楽しむのにふさわしい日本酒とワイン・焼酎はいかなるものが良いのか。私はとても悩みました。特別な栽培をされた原料米で、特別吟味され少量しかできない特別なお酒、ではMUJIを表現するのに適さないと考えました。伝統的な製法で、手塩にかけた原料米をしっかりと醸しお料理を引き立てられる日本酒。それには生酛や山廃造りの純米酒が良いと考えました。生酛や山廃は中にはとても個性が強く長期に渡り熟成をされていて濃い琥珀色になるものまであり、そんな生酛を飲まれた方には強烈な個性で飲みにくさを感じることもあります。しかし現在では醸造方法や分析器、醸造機械の進歩によりとてもクリーンでいながら生酛・山廃特有の「押し味」を表現している良酒がたくさん出てきています。そんな純米酒を厳選して提案することにしました。そしてその提案が会議で通ることになりました。
4月4日の開業の日、私は銀座に行きました。ダイナーでお料理とお酒たちの相性を検証をするためです。結果、とても安心することができました。
ホテルやダイナーのデザインや施工もたいへんよく考えられたもので、シンプルながら高品質感を醸しています。こんな銀座の一等地で、見た目も良くゆったりくつろげる客席で、こんな手ごろな価格でおいしいお料理とお酒が楽しめるとは!と大変な驚きがありました。もちろん言うまでもなく、ラグジュアリーな高級ホテルの接客や館内外の造りのゴージャスさ、そして最高の原価をかけて作り出される目を見張るようなお料理たちも間違いなく素晴らしく深い感銘を受けます。しかしこのMUJIの高品質さを感じさせる方法は、他社にはできないのではないでしょうか。その巧みな表現方法と奥深く多才な技術、そして今日まで良品計画が育て上げてきた信頼のイメージがあってこそだと考えます。ぜひ皆さまにお試しいただきたいと思います。
立派に大きく実った成果も、最初はほんとうに小さな種であったことでしょう。種を植え、時間と愛情をかけて大切に育ててこそのものだと考えます。この度(株)良品計画様が将来に大きな可能性を予感させる種を私共に植える機会を与えてくださいました。今の私の実力を大きく超過した仕事内容だと思います。しかし何事も負荷をかけずして成長は無いと信じております。
この有難い機会を与えてくださった(株)良品計画様と担当者様に心から感謝し、これから一生懸命取り組むことで恩返しをし、同時に自己陶冶に繋げて行きたいと思っております。
依田浩毅