獺祭の仕込みを見学に、次女を連れて羽田空港から岩国空港まで飛んだ。
桜井博志会長、桜井一宏社長に会って頂きゆっくり話をするのが主の目的。

しかし訪問するたび蔵の内外が変わるから何度行っても見るべきところがある。今回は仕込みタンクの大幅な増床があり、これにより最大量の仕込みが可能になった。とは言え原料米や精米(精米工場も新築してあるがまだ足りず、さらに増築の予定という)他にも克服しないとならない問題もあり、最大量を生産するにはまだまだ先といった印象だ。それにしても見所が多く楽しめる。新しい技術による造り、といっても伝統の醸造方法が基本になっていることから突飛な方法を用いているわけではない。あくまで伝統製法をより精密に磨き上げるため新しい技術や機械を導入している。清酒の造りではクラシックな道具ですべて人の手で造られる方が良いのだという意見がよく聞かれるが、それも程度問題ではないだろうか。明治や大正、昭和の職人が現代の精密な工作機械や測定器、機械をみたら絶対使いたがるに違いない。醸造だって同じことだ。獺祭は機械が造っていると知ったかぶりな愛飲家は見てきたようなことを言うが、それこそが見たことのない証拠だ。現在は高性能な蒸米機が導入されたが一昨年まで甑で人が蒸し米を掘っていた。いや現在も使われている。それもあの生産量で、である。麹造りも自動製麹機ではない。製造部の人達が造る。一・麹、二・酛、三・造り、と言われ一番大事にされる麹造りを自動で行うものが自動製麹機で今までは大メーカーが導入する例が多かったためか手造り派の愛飲家にはほとんどの場合不評である。しかし今はあの大人気の蔵だって導入している。その蔵は大量産の為に導入した訳ではない。常に可能性を追求するからである。それを知ったらだれも自動製麹機の悪口を言えなくなるだろう。しかし旭酒造は今のところ伝統的な人手による麹造りである。いずれにしても旧い造りが良くて新しいものは偽物で悪いものということはない。現在全ての蔵が精米機などの機械の恩恵を享受している。昔は水車、または人力だった。だから機械がダメだと言うのなら人力で搗いた90%精米くらいの酒しか飲むことができないしそもそも人力精米での酒は今ではもう無いはずだ。

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これからも獺祭は進化を続けていく。
今回は新しい手法で加熱殺菌の時間をわずか数秒で完了させる技術を使ったお酒をリリースするということで味も見させていただいた。もう数年試してきているという。目論見通りかなり生っぽい酒だった。よりフレッシュでより香り高く、そしてより澄んだ甘みを。それが獺祭である。その道しか見ていない。それだからこそ良いと思う。お燗をつけないと美味しくない渋く硬い純米酒も素晴らしい。そういうお酒は他に良い蔵がいくつもある。それらを心行くまで楽しめば良い。私はその時の気分やお料理や目的などで使い分けるほうが楽しいと思っている。だから幅広いお酒の勉強が欠かせないし自分の価値観の中だけに安住していられない。興味がどんどん湧いてきてしまう。これからもいろんな蔵の哲学や醸造を見ていくが、それがとても楽しみだ。

さて見学が終わり夜は桜井会長がフグ(徳山で言うフク)を食べようとお招きくださった。私の次女はフグが初めて。21歳にして最高のフグを味わえる次女がうらやましい。最高のフグ料理を体験しているであろう桜井会長が「ここはすごい」というのだから間違いがない。

フグと酒と言えばフグヒレ酒をすぐ思い出すことと思う。私もよく料理店様から「ヒレ酒にするんでテキトーに選んでください」と言われるのでテキトーに一番安い価格レンジの甘くない純米酒を選んできた。しかし今日は良い体験をした。二割三分の純米大吟醸を「飛びきり燗」にしたヒレ酒を体験したのだ。心配だったカプロン酸エチルの香りこそあるものの、その香りも手伝ってパイナップルやマンゴー、そしてキャンディといったトロピカルな「とろみのある甘さ」が印象的。そこに香ばしく焼かれたヒレ。旨味が凝縮した練ったばかりの餡のようなヒレ酒となった。自分では絶対にしないであろう組み合わせだったからこれは大変貴重な体験となった。
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最高の造り方は、最高の酒は、これしかないというものはない。先にも述べたがいろんなおいしさや造り方があってまだまだ酒は進化をしていく。頭を固くせず学んで行きたいと思える訪問になった。

 

最後になりましたが旭酒造の桜井博志会長、桜井一宏社長、西田製造部長、川崎営業部長に心より感謝申し上げます。