2015年7月2日、甲府駅前の十四番目の月で、本格焼酎「杜氏潤平」の金丸潤平さんと、山梨市牧丘町のワイン「四恩」の小林剛士さんという注目のお二人をお迎えしての会が催された。
伝統の単式蒸留の本格焼酎と土地の味わいを自然体で醸すワインという、まったく違う種類のお酒を同時に提案される会にはたしてどんな意味があったのか。

定刻19時。時間前から来店されたお客様ですでに席は満席。お客様の期待度が伝わってくる。金丸潤平さんと小林剛士さんの紹介から入る。乾杯のお酒は杜氏潤平・夏焼酎のソーダ割り。とても爽やかでソフトな甘み。焼酎をソーダで割ることに驚く参加者も。

「いいんですよ、美味しく飲んでいただければ」と潤平さん。

「ワインだって割っていただいて結構です。現にブルゴーニュのP(擬音)さんだって割って仕事中に飲んでいましたし(笑)」と小林剛士さん。

清酒でもよく問われることだが、瓶詰めされた時点の状態が最高なのであって、割ったりすることは造り手に対して失礼にあたるという考え方がある。正しいが、常にそうとは言えない。造り手の設計思想やお酒を飲む時の状況に依るからだ。私(依田)は真剣な唎酒の時以外はさほど神経質にならない。ソーダは良く使うし氷も水も重宝する。お湯だって良い。酒だけで楽しんでほしい、この酒の完成度を真剣にみてくれ、という造り手の酒には何も食べず無駄話はせず、温度が変わらないうちにすぐに味わうことにしている。そのような状況以外は体調に合わせ、気温に合わせ、お料理に合わせ、気分に合わせて楽しんでいる。

剛士さん「自然に造っています。コップでいいんです。口にあえばうれしいだけで」。もちろんその裏には秘めた情熱によるブドウ作り・ワイン造りがあるが、ワインとしてのとらえ方は実に軽やかで力みがない。

 

さて料理とお酒を紹介しながら会の流れをする。

前菜は無花果(イチジク)甲州ワイン煮、穴子寿司、もろこしかき揚げ。
ワインは「ローズ(橙)」と甲州ワインで煮たイチジクの相性は素晴らしかった。そしてもろこしの甘味を焼酎のソーダ割りが増幅させるようだった。

肉料理は信玄豚のゆで塩豚/ラビコットソース。
ラビゴットソースとは野菜のみじん切り、ビネガー、オリーブオイルなどをベースにしたソースでフランス語で「元気を出させる」から由来しているそう。本当に元気が出そうなメニューとなった。夏の潤平の水割りを合わせた。

魚料理は、スモーク鮎のジェノベーゼ仕立て。料理長小林が数日前から仕込んでいたのがこれ。「青い香りを加えたかったので、ジェノベーゼソースに細かく刻んだキュウリを混ぜてみたらこれがぴったりはまりました。私流の夏鮎の表現です」と小林。香ばしい燻煙香とふっくらとして柔らかい鮎の白身、それに青さを感じるソースとローズロゼが豊かにかみ合う。「完全にマリアージュですね。両方の美味しさが一段と上がった」と剛士さん。発想がすごい、素晴らしい料理人ですねとお褒めの言葉もいただいた。彼の奥様は料理研究家としても有名であるからとてもうれしい評価だった。

四恩×潤平 (45)

 

次は宮崎地鶏で作るチキン南蛮。
潤の醇(麦焼酎)のお湯割りで楽しむ。 潤平さんからお湯割りの作り方の実演と解説がなされた。「水は温度が高いものは上の方へ、冷たいものは下の方へとなる性格があるので、お湯を先にいれておいてからゆっくり焼酎を注ぐと自然に対流を起こしてきれいに混ざります。」水割りは逆にすると良い。また、お湯の温度は80度くらいがおすすめだそう。焼酎の設計・造りから毎日の飲みまで行う造り手の言葉は酒販店の私より数段上の説得力だ。熱々のチキン南蛮の旨味を口中いっぱいに広げてくれた。
四恩×潤平 (31)
お湯割りの解説をする金丸潤平さん
*写真をクリックすると大きな画像で見られます*

 

メインは宮崎牛いちぼの厚切りステーキ。
試作として取り寄せた「これぞ5A宮崎牛の霜降り」は脂が強すぎてひと口で気持ちもお腹もいっぱいになったため、急遽いちぼに変更した。それでも細やかで量もしっかりとある脂の繊維が全体にまわっている見事なものだ。杜氏潤平(芋)の湯割りと四恩ワインの窓辺(赤)で楽しんだ。窓辺は日本の食事にフィットするなといつも感心する好きな赤で、濃厚凝縮感たっぷりのソースや濃い煮込み料理のような重い料理を守備範囲と考えていないようもに思える。今回もそれが日本料理のステーキ、に見事にはまった。ワインだけで味わうと鮮やかで輝きのある明るめのルビー色。チェリーやブルーベリーなどの果実にハーブ、スパイス、ビターチョコに加え少しの野菜、わずかに藁の複雑な香りと香り同様のフレッシュかつ複雑味のある味わい。アタックもタンニンもあるが柔らか。余韻は中程度プラス(自作語)。テンダーな肉質の上に旨味たっぷりな宮崎牛のステーキととても良く合い双方素晴らしいとの声が各テーブルで多く聞かれ、潤平さん剛士さんも食べながら笑顔で酒談義に大きな花を咲かせた。

食事はライスボールの冷汁添え。
冷汁を好きな方は多いと思う。飲んだ後は最高の一品のひとつだ。夏の潤平をお好みで楽しんだ。ここまでくると参加者の手際も良い。水割り、お湯割り、ロックとすいすい作って間違いがない。たまには順序が逆になって笑い声も聞かれたが、それも楽しさを演出していたようだ。試験やコンテストじゃないのだから、楽しめばよい。

 

デザートはコーヒージュレのバニラアイス添え・杜氏潤平華どりをかけて。
「はなどり」とは焼酎の蒸留する時最初に蒸留されてくる香気・旨味成分が多い部分。それをバニラアイスにかけて楽しんだ。これは潤平さんのリクエストである。
四恩クレマチスは発泡性のワインで食事の最後を爽やかに締めくくる最高のワインであったと思う。剛士さんの考えがワインになり参加者や普段のお客様に伝わり体に染み込んでいく、そんな映像が頭にふと浮かんだ。筋肉や内臓は三ヶ月周期で新陳代謝して入れ替わる(諸説あり)と言われるから、普段から飲んで彼のワインに対する考えと愛情を細胞まで浸透させてほしい思えるワインだった。

四恩×潤平 (56)

 

本格焼酎とワインを同時に楽しむという事に、私自身最初は疑問があった。あまりに違う酒類である。

この日、焼酎ファンがワインの魅力を知った。
ワインファンが本格焼酎の魅力を知った。
これは小さい事ではない。

ワイン会にはワインラバーが、焼酎の会には焼酎愛好家が詰めかける。どちらも普段からそれぞれを好きで飲むから知っている。しかしどちらの会へも同じ頻度で行く方は多くない。統計があるわけではないからあくまで酒販店としての主観だが、どちらか好きな方ばかり飲む人が多いと思う。つまり会を開催してもいつも「そのお酒を良くわかっている人が多く来場する」場合が多い。実際いつも見る顔が大変多いし日本中のそんな会場を回っている熱心なファンも少なくない。 ところがこのようなまったく違う種類のお酒が提供される会ならゼロまたはゼロに近い人までその酒に触れることから『純粋に新しいファンを作る機会』となる。
もう一つは違う種類のお酒がそのお料理に対してどの様な味わいの変化をもたらすかという、とても興味深い体験学習の場となる。これが単一種類のお酒ならそれに合わせてメニューの方を合わせて行く事がほとんどだから、今回の様な体験は出来ないはずである。実際に他にも想像以上の良い点があるかも知れない。改善すべき点にもしっかり目を向けてこれからも今回のような会を開催してみようと思う。

 

最後に、ご参加いただいたお客様、ゲストの金丸潤平さん、小林剛士さんに心より御礼を申し上げ、会の報告といたします。

(依田浩毅)

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