2014年10月5日。福岡空港から天神へ。
ソラリアホテルに集まった全国の酒販店。出迎えるのは福岡の純米蔵、杜の
蔵の全社員。 今日は杜の蔵が20年前に新ブランドとして発表した純米酒「
独楽蔵」が発売20周年を迎えた祝賀会が開催されました。

20年前、当時まだ森永酒造という社名だった現会長の森永和男さんが食事と
ともに楽しむ純米酒として熟成を経た後のまろやかな味わいを特徴にした独
楽蔵を発売することを決めたもので、お燗をつけてよりまろやかさが増す設
計にされました。純米酒や純米大吟醸も搾ってから数年の間蔵でゆっくり熟
成をさせてから出荷されるためすぐには売れません。杜の蔵でも相当な経済
的体力が必要だったためそれは大変な覚悟が必要だったと思います。それで
もその味わいは将来同社の宝になると思い決心したに違いないのではと想像
しました。
その味わいはとても強い花やフルーツのような香りとジュースのような澄ん
で濃い甘味を持ち、多くの方がひとくち飲んだだけで飲みやすい、ワインみ
たい、と高く評価する印象度の高い味わいではなかったのです。むしろその
逆、おだやかでおっとりとした印象の純米酒でした。当時は華やかできれい
な静岡吟醸が大人気の頃。お燗の魅力を知っていたとはいえ私もそんな静岡
吟醸の大ファンだったので、こんなおとなしい味わいのお酒がはたして長く
続くのだろうかと心配したことをここに打ち明けますが、気が付いたら20年、
本物だったということです。

杜の蔵と独楽蔵の歴史が紹介されました。
1898年(明治31年)の創業である杜の蔵。実は依田酒店も明治34年の創業です。
けっこう近い。森永一弘社長は五代目ですが、三代揃った写真も紹介されま
した。とても珍しい事ですが酒造りの最高責任者である杜氏も末永家親子四
代に渡り杜の蔵の造りを支え続けています(これについては別に紹介させて
いただきます)。今までの20年とこれからの独楽蔵・杜の蔵についてのこと
も発表もあり、地道に歩み続ける蔵だと思います。

杜の蔵の社員が紹介の時は全社員がステージ前に整列を完了する間に森永会
長がふと見せた表情がとても印象的でした。どんなことを思っていたのでし
ょうか。いつか尋ねてみたいと思います。マイクがまわされひとりひとりの
挨拶。全員が独楽蔵を支えてきたことがその言葉から伝わってきます。

独楽蔵という銘柄は何からきているのかご存じでしょうか。
博多には伝統的に伝わる「博多独楽」という伝統芸能があります。芯に鉄芯
を使った独楽で全国の独楽芸の発祥と言えるのだそう。http://urx2.nu/gdRd
その長い伝統を純米酒に表現したいという思いからとり命名されました。
懇親会中には素晴らしい博多独楽を見せてもらいましたが、日本刀の刃の上
や細く長い竿の上、そしてロープの上で回り続ける博多独楽には大きな喝采。
驚きの独楽芸でした。

杜の蔵は純米酒しか造らない蔵となりました。原料である酒米を大切にして
いて契約農家のほか蔵の横でも酒米・夢一献を育てています。写真は森永社
長と蔵の横の圃場。山田錦は福岡県糸島産。地元の米を使います。

20年前の私は日本酒の専門店を目指してひとりで必死に歩き始めたばかりで
した。そんな私を全国の優良酒販店が集まる会に誘ってもらえたことは今も
元気に酒屋をやれている大事な基盤になっていると思います。独楽蔵20年の
会中、ずっとそのことを思わずにはいられませんでした。10年20年成功を続
けることは出来ても50年以上続けていくことは難しいと言います。何をもっ
て成功と言うかは人それぞれですが、独楽蔵も、ましてや依田酒店はまさに
これからということです。独楽蔵がもっと認知され楽しまれるよう祈念する
とともに、私もここからがもっと頑張りどころだと強く思った独楽蔵20年の
会でした。

 

依田浩毅