仁井田本家 にいだしぜんしゅ|仁井田本家

平成22年より全量 自然米、天然水、生酛(令和3年より)、100%使用。

これだけで”どんな蔵だろう”と想いが募ってしまいます。自然米という概念は以下の通りです。

  • 農薬・化学肥料を一切使わない自然栽培米
    ※田んぼでは農薬も化学肥料も不使用で育てられる。
  • 田んぼ由来の資材だけを田に戻す“無肥料”
    ※栽培 稲わら・もみ殻・畔の草など、田んぼから出たものだけを循環させる。
  • 自然の力を活かした除草方法
    ※中野式除草やかぶとえびによる草取りを採用。
  • 有機JAS認定を取得した栽培体制
    ※自社田および契約栽培グループで自然栽培を行い、有機認証を受けている。

これだけで、中々できることではありません。まず、多くの田んぼを所有していることが前提です。
それはなぜか。水田が集まる地区のなかで、「農薬を使いません」と言ったとします。
すると、もしも害虫の被害が発生し他の生産者の田へ被害が及ぶ可能性はゼロとは言えないからです。
因果関係を完璧に証明するだけでも大変困難なため、多くの反対があることは予想されます。

無肥料は収穫量が減る可能性があります。つまり、コスト増に直結します。窒素系肥料は適量なら収穫量を増やす効果がありますが、病気や害虫に弱くなったり葉や茎のほうが大きく成長してしまうこともあります。そしてとても重要なことに、米にタンパク質が増えてしまうことが分かっており、それは味わいや酒造適正に影響を与えます。

これ以上にも多くの課題があるため、”自然米”を生産し、そのお米だけで酒造りをするということは大変困難なことだとわかります。その困難を承知で取り組んでいるのが仁井田本家なのです。

ワインでは地名や畑が重要視されます。その土地の個性、気候風土、文化が感じられるからだと思います。それを日本酒で体現しようとしている蔵の一つで、上で述べたようにとても困難なことを現実実行する稀有な蔵が、仁井田しぜんしゅなのです。

作りは「生酛造り」。これも自然の乳酸菌が作り出し、蔵の中で生きてきた酵母が米の糖分をアルコールと二酸化炭素に変える。自然の力を借り、自然に返す。そんな酒造り。

味わいは”自然に発酵させたらこうなった”ではありません。
設計図に合わせて温度管理もするし、酒造りに必須な多くの操作はします。それ故、味わいは穏やかで、
米本来の豊かな甘味と旨味がふくらみ、生酛ならではの心地よい酸が全体を引き締めています。濃醇でありながら軽快な余韻を楽しめる一本です。

私自身自然(派)と聞くと身構えるところがありますが、仁井田本家の日本酒には強烈な個性は無く、穏やかで米由来の味わい深さと、意外に軽快なボディがスイスイと量を楽しませてくれます。
ぜひお試しください。それが日本の田や生物体系や産業を守ることに繋がっています。

依田浩毅