12月第2週の週末、エペルネで毎年行われる冬祭りがある。「Habits de Lumière(アビ・ド・リュミエール)」だ。冬の夜、街の目抜き通り「Avenue de Champagne(シャンパーニュ通り)」が光の装飾に包まれる。直訳すると「光の服」という祭りの名称に違わず、通り全体が光をまとう。

軒を連ねる大手メゾンの建物は、趣向を凝らした照明で彩られる。もともと貴族的な外観の建物が、昼とも普段とも違う、色とりどりの華やかな姿で浮かび上がる。そして、多くのメゾンが中庭や駐車場に臨時テントを設置して、自社シャンパーニュをグラス売りする特別営業を行う。DJの選曲でクラブのような盛り上がりを見せるテントもあれば、女性歌手のしっとりとした歌声が響く野外ジャズライブ会場と化した敷地、寒さと対照的な熱気あふれるラテン音楽の生演奏の前でカップルたちが楽しげに躍る中庭もある。

シャンパーニュの夜祭りといっても、子どもが楽しめる催しもある。エペルネ市庁舎の外観をスクリーン代わりにして、音楽・効果音・立体的な映像を駆使したプロジェクション・マッピングが投影される。ちょっと笑える場面もあれば、シャンパーニュの泡立ちを表現した地元らしい場面もある。子どもも大人も、目と耳で楽しめる内容だ。

シャンパーニュ通りをそぞろ歩くパレードも見逃せない。白馬の姿を模した大型の風船、くるくる回りながら舞うレース状のドレス、映画メリーポピンズを思わせる衣装をまとった女性たちによるダンス等々。今年は「白」を多用していたせいか、暗い夜に白い光が映えて、とても幻想的だった。観客はパレードとともに歩みを進め、通りの中腹にあたるシャンパーニュ広場に到着する。さっきまで山車の上にいた踊り子たちは、クレーンに吊り上げられた舞台装置に場所を変えて、観客の頭上、空中で踊り続ける。真っ暗な冬の空を背景に繰り広げられる空中演舞は観る者を惹きつける。演目が終わると割れんばかりの拍手が起こった。

興奮冷めやらぬうちにとばかりに、すぐさまアナウンスが流れ、観客たちは広場真横の大手メゾン駐車場前へとさらに歩みを促される。「打ち上げ花火」が始まる。花火は、大音量の音楽と一緒に打ち上げられる。単に花火を見るというよりは、花火ショーを言ってよいかもしれない。今年は、数日前に亡くなった国民的人気を誇るロック歌手ジョニー・アリディの代表曲「Allumer le feu (「火をつけろ」の意)」が流れて、拳を突き上げて歌っている人もいた。祭りの最高潮である花火が終わると、特に子連れ客の多くは家路につく。それ以外の人たちは道をメゾンの方へと引き返して、飲んだり踊ったりを楽しむ。

今年は夜の冷込みが激しく、雪山用ブーツを履いていたにも関わらず、花火が終わるころには、すぐには歩き出せないと思うほど足が寒さでかじかんでしまった。その翌朝には、珍しく雪が積もった。朝出勤すると、上司がブティックの前で雪かきをしていた。わたしの顔を見るなり、生まれも育ちもエペルネの彼は言った。「見ろよ、この雪。祭りを盛り上げるために、街がお金を払って雪を降らせたんだよ。スゴイだろ」。よくわからない角度からのお国自慢だが、とりあえず応酬する。「雪まで降らせるなんてスゴイねぇ。不可能はないねぇ。シャンパーニュ、恐るべし!」

一連の催しは、金・土の両日夜にほぼ同じ内容で行われる。日曜朝の催しはがらりと変わり、クラシック・カー約400台が一堂に集まる。旧車の愛好家のみならず、現在とは趣の違う名車の数々は、素人が見ても楽しい。最後にクラシック・カーのパレードが行われる。こうして、年一度の祭典は幕を閉じる。

祭りが終わると、クリスマス・年末まであっという間だ。そして、さらに寒く深い冬の色が濃くなっていく。

文:山田宏美