シャンパーニュの世界遺産登録が決まってから1ヶ月が過ぎた。

7月4日、ドイツ・ボンで開催されたユネスコ・世界遺産委員会が「シャンパーニュの丘陵・メゾン・地下蔵(Les coteaux, maisons et caves de Champagne)」の世界文化遺産登録を決定した。5月にイコモス(ICOMOS、国際記念物遺跡会議)がシャンパーニュの世界遺産登録を推薦した報道を知ってから、世界遺産の決定を楽しみにしていた。しかし、晴れて正式決定された時、わたしは急用で一時帰国しており、残念ながらシャンパーニュにいなかった。盛り上がりを体感できず、なんだか消化不良な感は否めないものの、世界遺産決定後の様子を少しお伝えしたい。

ユネスコの説明によると、シャンパーニュの丘陵・メゾン・地下蔵とは「17世紀にシャンパーニュが登場してから、19世紀のその早熟な産業化に至るまで、瓶内二次発酵による発泡性ワインの製造方法が発展した場所」であり、正確には「オーヴィレール、アイ、マルイユ・シュル・アイの歴史的なブドウ畑」「ランスのサン・ニケーズの丘」「エペルネのシャンパーニュ通りとフォール・シャブロール」の3つがそれに該当するという。オーヴィレール村は、ドン・ペリニヨン司祭がいた修道院があることで有名。フォール・シャブロールは、ブドウ栽培研究・教育を行った施設。それ以外の場所は、主に大手メゾンが現存する場所だ。

実家がグランクリュのシャンパーニュ生産者の友人は「産地全体が選ばれたのかと思ったけど、違っていて少しがっかりした」と話していた。全域は範囲が広すぎるとしても、グランクリュ畑のエリアがもっと含まれると思っていたので、詳細を知って、わたしも少し驚いた。

エペルネに戻り、職場に復帰すると、上司は開口一番「ニュース見た?」と嬉しそうに聞いてきた。ブティックは、シャンパーニュ通りではないものの、その入り口にあたる広場に面している。「すぐ隣だからね、本当に良いニュースだよ!」と喜んでいる。ただ、上司以外、地元の常連客や外国人観光客から、その話題を聞いたことがない。世界遺産決定のニュースが流れたとはいえ、まだガイドブックにも掲載されていないので、浸透していくのはこれからなのだろう。

地元紙に掲載された、ランス観光局長インタビュー記事が興味を引いた。「(世界遺産登録決定を)地元の皆が十分に喜んだとは思えない。具体的なアクションを語る前に、まずは地元住民の関心を高めることが必要だ。まだ真価を認められていないままの場所と世界的な名声を誇る特産品の間に本当の問題がある。ユネスコの後押しは、この両者を結びつける、唯一かつ歴史的な機会だ」。

ワイン産地としては、既に登録済みの4地域、サンテミリオン(フランス)、アルト・ドウロ(ポルトガル)、トカイ(ハンガリー)、ピエモンテ(イタリア)に続いて、シャンパーニュと同時にブルゴーニュが新たに世界遺産となった。ある記事によれば、1999年にワイン産地として初めて世界遺産になったボルドーのサンテミリオンでは、世界遺産登録後、観光客は25%増えたという。

ブティックの売上は昨夏よりも伸びているが、テラス席ができた分の上乗せなのか、世界遺産効果なのかは、はっきりしない。お店でシャンパーニュを買ってくれるお客さんの中には「これから南仏にバカンスに行くところ」「バカンスが終わって帰る途中に寄った」と話す人も多い。どんな理由であれ店に立ち寄ってもらえるのは有難いことだが、一方でシャンパーニュ地方こそが旅行の目的地というお客さんは、まだそれほどいない印象だ。

発泡性ワインのシャンパーニュ(le champagne)のみならず、地方としてのシャンパーニュ( la Champagne ) も、広く知られるところとなるのか。世界遺産決定と前後して、あちこちで工事が始まり、ある生産者が不動産を購入した話や、誰かが店を始める云々、どこまで本当かはわからないが、新しい計画の噂も飛び交っている。移り変わりを目の当たりにできることも楽しみだ。