平成19年のGW最終日。とても晴れて汗ばむ良い天気の下、私は奈良県・三輪駅でJR桜井線の電車を降りました。

駅前で私を見つけて声をかけてくれたのは今西酒造 十四代目蔵主、今西将之さん。
「みむろ杉」醸造元 今西酒造(株)ウェブサイト
若々しく張りのある肌の少し丸顔に黒ぶち眼鏡。そして頭には手ぬぐい。ひとなつこい笑顔。そして明るいトーンの声。生気に満ちていました。

 

「よくいらしてくださいました!まずは大神神社をご案内します」
大神神社とかいて『おおみわじんじゃ』、と読みます。日本最古の神社なんですよ」と今西さん。
「そうなんですね、てっきり出雲大社か伊勢神宮かと思いこんでいました」と私。

「境内にはぜひ参拝していただきたい神社と場所があるんです」
「まずは拝殿から参拝します」

威容のある姿を見せる拝殿は荘厳な空気に満たされていました。背筋を伸ばさずにはいられません。
二礼二拍手一礼の作法に則り参拝。心の中が一瞬透視された様な通常ではない感覚に、ここは特別な場所だと認識している自分自身を感じました。

「ここは活日神社と書いて『いくひじんじゃ』と読みます。崇神天皇に召されて三輪の神様にお供えする酒を造った高橋活日命をまつっています。杜氏の祖先神として全国の酒造関係者から信仰が篤いんです」
「あっ、それで鳥居のところに全国の銘醸蔵のコモ樽があんなにたくさん奉納されていたんですね」
なんと、杜氏の祖先がここにおわしたとは驚きでした。そんな地で「みむろ杉」は醸されるのですから、神代の時代から受け継がれている何か精神的なものを感じざるを得ません。

「さ、日本酒には欠かせない大切なものであり、味を決める大きな要素になるものを見に行きましょう」
今西さんは私を促して細い参道を歩き出しました。その先にあったのは狭井神社と呼ばれ、病気を癒し健康な身体を保つ力を持つとされ、全国の製薬会社から深く尊ばれている神社ということです。そのすぐ脇に古来からの神社式建築の屋根がかけられて守られている「薬井戸」がありました。

「この湧水は万病に効くと言われ、水を汲みにこられる方が後を絶たない井戸なんですよ」
「そして弊社も、この『薬水』と同じ水脈の水を仕込み水に使っています」
その水を味わってみるととても柔らかな中にミネラルをわずかに(この、わずかに、が大切)感じ、透明感の中に芯を持たせていました。
参拝を終えて参道まで戻る道は「薬道」といい、全国の製薬会社から寄贈された多くの石灯篭が両脇に整列し、私達や参拝客を見守っていました。

蔵に戻るとまずは仕込み蔵の見学。長い歴史を感じる建物の中に、大変合理的かつ高効率な洗米機を始めとする醸造機器が並び、美しい酒造りへの意気込みを見せつけていました。

「もう、やれることは全部やってやろうと。効率より、酒質最重視で」
「使用する酵母は協会9号だけです。王道で勝負したいからです」
出来る限りの酒質向上を目指すその心意気が力強い言葉になってほとばしります。なるほどと感心するその工夫と体力と信念。若い蔵元と若い蔵人。先にきき酒をしたみむろ杉の各種が生まれてくる過程を見れば、透明感と新鮮さ、そして王道9号酵母のみの品格を納得しました。

一旦ホテルにチェックインしたあとは日本料理店でみむろ杉と素晴らしいお料理の数々を合わせて楽しみ、そしてお互いの生きてきた様や哲学の交換をしました。年齢は関係ない。生きてきて乗り越えた壁の数や高さが人を鍛えるのだと痛感。私よりはるかに若い今西さんに、大きく厚い人間性を感じとても感銘を受けた一日となりました。

奈良・大神神社の地で醸される清らかで新鮮な酒、みむろ杉。依田酒店で2019年7月より取り扱わせていただくこととなりました。ぜひとも味わっていただきたいお酒です。どうぞ宜しくお願い申し上げます。

(依田浩毅)